自動車鈑金塗装の開業支援 > 開業コラム > 塗装ブースの選び方|局所排気・届出・設置場所を鈑金工場向けに解説
塗装ブースは、鈑金塗装工場の設備の中でも金額と設置工事が大きく、あとから入れ替えにくい設備です。選ぶときに見るのは仕上がりや乾燥時間だけで足りず、有機溶剤中毒予防規則(以下、有機則)が求める換気の方式、労働基準監督署への計画の届出、塗料やシンナーを置く量に応じた消防の届出、建屋のどこに置くかまで関わってきます。この記事では、開業前の鈑金工場が塗装ブースを選ぶ順番に沿って、法令で決まっていることと、工場ごとに決めることを分けて説明します。条文は2026年10月時点でe-Gov法令検索に掲載されている内容を確認しています。
自動車の補修塗装で使う溶剤系の塗料やシンナーの多くは、有機則の「有機溶剤等」に当たります。有機則第1条では、有機溶剤を重量の5パーセントを超えて含む混合物を「有機溶剤含有物」とし、有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務を「有機溶剤業務」に数えています。つまり、溶剤系の塗料で車を塗る作業は、原則として有機則の規制を受ける作業です。
有機溶剤等は第1種から第3種に分かれ、どの区分の物を屋内で扱うかで、必要な設備が変わります。有機則第5条は、屋内作業場で第1種または第2種の有機溶剤等を使う業務について、発散源を密閉する設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置のいずれかを設けるよう定めています。第3種については第6条で、タンクの内部などの場所に限って全体換気装置も選べるとされています。使う塗料やシンナーがどの区分かは、メーカーが出している安全データシート(SDS)で確かめられます。
区分は作業場にも表示します。有機則第25条により、第1種は赤、第2種は黄、第3種は青で色分けし、色分け以外の方法とあわせて見やすい場所に示すことになっています。また第2条には、1時間に使う量が少ない場合の適用除外があり、第2種有機溶剤等の許容消費量は「W=(2/5)×A」(Wはグラム、Aは作業場の気積で、150立方メートルを超える場合は150として計算)です。気積が150立方メートルの作業場でも、第2種なら1時間あたり60グラムが上限という計算になります。
塗装ブースの換気方式は「使う溶剤の区分」で決まります
塗装ブースの選び方で最初に決めるのは、メーカーや価格より前に、屋内で使う有機溶剤等の区分です。有機則第5条により、屋内作業場で第1種または第2種の有機溶剤等を使う塗装では、発散源の密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置のどれかが必要で、全体換気だけでは足りません。区分は塗料とシンナーのSDSに書かれており、作業場では第1種を赤、第2種を黄、第3種を青で表示します(有機則第25条)。1時間あたりの使用量が許容消費量以下なら一部の規定が外れる仕組みもありますが、第2種で気積150立方メートルの場合でも上限は毎時60グラムです。ブースの見積を取る前に、使う予定の塗料とシンナーのSDSを手元にそろえておくと、業者との話が早く進みます。
塗装ブースとして売られている設備の多くは、局所排気装置かプッシュプル型換気装置として設計されています。局所排気装置は、発散源の近くにフードを置いて蒸気を吸い込み、ダクトとファンで外へ出す仕組みです。プッシュプル型換気装置は、片側から空気を吹き出し、反対側で吸い込んで一定の気流をつくる方式で、有機則第16条の2により、厚生労働大臣が定める構造と性能を持つものでなければなりません。プッシュプル型を選ぶ場合は、その告示に適合している旨を業者の仕様書や説明で確かめてください。
局所排気装置には、有機則第16条で、フードの型式ごとに出せなければならない風速(制御風速)が決められています。囲い式フードは開口面での最小の風速、外付け式フードはフードの開口面から最も離れた作業位置での風速で測ります。
| フードの型式 | 制御風速(メートル毎秒) |
|---|---|
| 囲い式フード | 0.4 |
| 外付け式フード(側方吸引型) | 0.5 |
| 外付け式フード(下方吸引型) | 0.5 |
| 外付け式フード(上方吸引型) | 1.0 |
フードとダクトの形にも決まりがあります。有機則第14条では、フードは蒸気の発散源ごとに設け、外付け式は発散源にできるだけ近い位置に置くこと、ダクトは長さをできるだけ短く、曲がり(ベンド)をできるだけ少なくすることを求めています。さらに第18条で、労働者が作業している間は制御風速以上で動かし続けることが事業者の義務です。建屋の形の都合でダクトを長く回す計画になったときは、ファンの能力で制御風速が出るかを業者に計算してもらうのが安全です。
局所排気装置を選ぶときは制御風速の数字で比べます
局所排気装置型の塗装ブースを比べるときの物差しは、有機則第16条の制御風速です。囲い式フードは毎秒0.4メートル、外付け式は側方吸引型と下方吸引型が毎秒0.5メートル、上方吸引型が毎秒1.0メートル以上を、すべてのフードを開けた状態で出せる能力が必要です。カタログの風量(立方メートル毎分)だけでは判断できないので、設置後の建屋とダクトの条件で制御風速を確保できるかを業者に確認します。加えて、フードは発散源ごとに近く、ダクトは短く曲がりを少なく(第14条)、作業中は常に制御風速以上で運転する(第18条)ことが条文で決まっています。プッシュプル型を選ぶ場合は第16条の2の告示に適合しているかを確かめます。
労働安全衛生法第88条は、厚生労働省令で定める機械等を設置、移転、または主要構造部分を変更するとき、工事の開始の日の30日前までに計画を労働基準監督署長へ届け出るよう定めています。労働安全衛生規則第86条と別表第七には、有機則第5条または第6条により設ける局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置(移動式のものを除く)が届出の対象として載っています。届書は様式第20号で、有機溶剤業務の概要や発散の抑え方を書いた書面と図面を添えます。
つまり、固定式の塗装ブースを入れる場合は、工事の30日前までに所轄の労働基準監督署へ出すのが基本です。設置業者が書類づくりを手伝ってくれることもありますが、届け出るのは事業者自身です。開業の日程を組むときは、この30日を工期の前に置いておくと、あとで慌てずに済みます。
塗料やシンナーは、消防法上の危険物(第4類)に当たるものが多く、置いておく量によって手続きが変わります。危険物の規制に関する政令の別表第三では、指定数量を次のように定めています。
| 品名(第4類) | 指定数量 | 5分の1の量 |
|---|---|---|
| 第1石油類(非水溶性液体) | 200リットル | 40リットル |
| 第1石油類(水溶性液体) | 400リットル | 80リットル |
| アルコール類 | 400リットル | 80リットル |
| 第2石油類(非水溶性液体) | 1,000リットル | 200リットル |
指定数量以上を貯蔵したり取り扱ったりするには、消防法第10条と第11条により、許可を受けた製造所、貯蔵所、取扱所が必要です。品名の違う危険物を同じ場所に置く場合は、それぞれの量を指定数量で割った値を合計して判断します(消防法第10条第2項)。指定数量の5分の1以上で指定数量未満は「少量危険物」と呼ばれ、市町村の火災予防条例で消防署長への届出が定められています。たとえば大阪市では大阪市火災予防条例第60条で届出を求めています。条例は市町村ごとなので、所轄の消防署に確認してください。
塗装ブースの届出は「30日前の計画届」と「危険物の量」の2本立てです
固定式の塗装ブースを設置するときは、労働安全衛生法第88条により、工事開始の30日前までに労働基準監督署へ計画を届け出ます。対象は有機則に基づく局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置で、移動式は除かれます(労働安全衛生規則別表第七)。もう1本は消防の手続きで、塗料やシンナーの第1石油類(非水溶性)なら指定数量は200リットルです。その5分の1の40リットル以上を置く場合は、市町村の火災予防条例に基づく少量危険物の届出が必要になり、200リットル以上なら消防法の許可施設が要ります。品名が違う危険物は倍数を合計して判断するので、在庫の持ち方も含めて所轄の消防署に相談しておくと確実です。
設置場所を決めるときに考えるのは、火気、乾燥の方式、作業の動線の3つです。厚生労働省「職場のあんぜんサイト」の化学物質対策シート「吹き付け(工場内の溶剤塗装)」では、化学物質を扱う現場の近くで火気を使わないこと、そしてその火気には電動工具や送風機、排気装置などの防爆でない機器も含めて考えるよう書かれています。設備や機器へのアースの取り付け、帯電防止服や帯電防止靴の着用、廃ウエスを蓋付きの容器に入れることも、同じシートのチェック項目です。
鈑金工場では、サンダーやグラインダーで火花が出る作業と塗装が同じ建屋にあることが多いはずです。塗装ブースは、火花の出る鈑金エリアから距離をとり、塗料庫とブースの間を短く、溶接やサンダー作業の通り道とは交わらない位置に置くのが基本の考え方です。必要以上の量の塗料を作業場に置かないことも、同シートで延焼対策として挙げられています。
加熱して乾かす機能を持つブースは、労働安全衛生法上の「乾燥設備」に当たる場合があります。労働安全衛生法施行令第6条第8号は、危険物等に関わる乾燥設備で内容積が1立方メートル以上のもの、それ以外で燃料を熱源とし一定以上の消費量があるものや、電力を熱源とし定格消費電力が10キロワット以上のものについて、作業主任者の選任が必要な作業としています。乾燥設備には労働安全衛生規則第299条で1年以内ごとの定期自主検査も定められています。熱源と容量を業者に確かめ、該当するかどうかを所轄の労働基準監督署で確認しておきましょう。
建屋そのものの用途や増築に関わる制限は、自治体の建築の担当窓口が判断します。物件探しの段階から関係するので、店舗や作業場の条件と一緒に開業に必要となるもの10項目で全体の順番を確認しておくと抜けが減ります。
設置場所は「火花から離す」「塗料庫から近づける」の2つで考えます
塗装ブースの設置場所は、溶剤の蒸気と点火源を離すことを最優先に決めます。厚生労働省の職場のあんぜんサイトのシート「吹き付け(工場内の溶剤塗装)」では、電動工具や送風機、排気装置のような防爆でない機器も火気に含めて扱うよう求めています。鈑金工場ならサンダーや溶接の火花が出る場所からブースを離し、塗料庫からブースまでの距離は短くします。加熱乾燥の機能を持つブースは「乾燥設備」に当たることがあり、電力を熱源とするものは定格消費電力10キロワット以上で作業主任者の選任が必要な作業になります(労働安全衛生法施行令第6条第8号)。乾燥機能の熱源と容量は、見積の段階で業者に書面で出してもらうと判断しやすくなります。
塗装ブースは入れて終わりの設備ではありません。有機則には、導入後に続ける管理がまとまって書かれています。開業後の毎月の段取りに組み込めるよう、頻度ごとに並べました。
| やること | 頻度 | 根拠 |
|---|---|---|
| 有機溶剤作業主任者の選任 | 作業を始めるまでに | 有機則第19条 |
| 作業主任者による換気装置の点検 | 1か月を超えない期間ごと | 有機則第19条の2 |
| 局所排気装置などの定期自主検査 | 1年以内ごとに1回(記録は3年保存) | 有機則第20条、第21条 |
| 作業環境測定(有機溶剤の濃度) | 6か月以内ごとに1回(記録は3年保存) | 有機則第28条 |
| 特殊健康診断 | 雇入れ時、配置替え時、その後6か月以内ごと | 有機則第29条 |
| 疾病の症状や応急処置などの掲示 | 常時 | 有機則第24条 |
有機溶剤作業主任者は、有機溶剤作業主任者技能講習を修了した人から選びます。職務は、作業の方法を決めて指揮すること、換気装置を1か月を超えない期間ごとに点検すること、保護具の使用状況を見ることなどです。定期自主検査では、フード、ダクト、ファンの摩耗や腐食、ダクトや排風機のじんあいのたまり具合、ベルトの作動状態、吸気と排気の能力などを確かめ、異常があれば有機則第23条により直ちに補修します。
職人が1人で開業する場合でも、従業員を雇った時点でこれらの義務が具体的に動き出します。採用の予定があるなら、講習の受講と測定業者の手配を開業準備の中に入れておくと、雇ってから慌てずに済みます。
導入後の管理は毎月、毎年、半年ごとの3つの周期で回ります
塗装ブースを入れたあとの管理は、有機則で頻度まで決まっています。毎月は、有機溶剤作業主任者が局所排気装置などを1か月を超えない期間ごとに点検します(第19条の2)。毎年は、フード、ダクト、ファンの損傷や吸排気の能力を確かめる定期自主検査を1年以内ごとに行い、記録を3年間保存します(第20条、第21条)。半年ごとには、屋内作業場の有機溶剤濃度の作業環境測定(第28条)と、常時従事する人の特殊健康診断(第29条)があります。作業主任者は技能講習の修了者から選ぶ決まりなので、開業前に受講の予定を立てておくと、ブースの完成と同時に作業を始められます。
初期費用を抑えたい場合、設備の一部を中古で揃える方法があります。ただし中古の塗装ブースを移設する場合も、労働安全衛生規則第86条の「設置」や「移転」に当たるので、計画届は新品と同じように必要です。前の持ち主のもとでの定期自主検査の記録が残っていれば、ファンやダクトの状態を判断する材料になります。移設後は、自分の建屋の条件で制御風速が出ているかをあらためて確かめます。
どの設備を中古にし、どれを新品にするかは、鈑金塗装の設備を中古で揃えるときの考え方で詳しく整理しています。設備にかかるお金の全体像は鈑金塗装の開業資金の記事も参考になります。
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中古の塗装ブースでも届出と性能確認は新品と同じです
中古の塗装ブースを使う場合でも、法令上の扱いは新品とほぼ変わりません。固定式の局所排気装置やプッシュプル型換気装置を設置や移転するときは、労働安全衛生法第88条と労働安全衛生規則第86条により、工事開始の30日前までに計画届を出します。移設後は、建屋の広さやダクトの取り回しが前の工場と変わるため、有機則第16条の制御風速が出ているかを測って確かめます。前の持ち主の定期自主検査記録(有機則第21条で3年保存)が手に入れば、ファンやダクトの傷み具合の判断材料になります。本体価格だけで比べず、移設工事、届出、測定までを含めた費用で新品と比べると、判断を誤りにくくなります。
屋内作業場で第1種または第2種の有機溶剤等を使って塗装する場合、有機則第5条により、発散源の密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置のいずれかが必要です。1時間の使用量が許容消費量以下なら一部の規定が外れる仕組みはありますが、所轄の労働基準監督署の認定が必要な場合もあるので、事前に相談してください。
労働安全衛生法第88条により、工事の開始の日の30日前までに所轄の労働基準監督署長へ届け出ます。移動式のものは労働安全衛生規則別表第七の対象から除かれています。
第1石油類(非水溶性液体)の指定数量は200リットルで、その5分の1の40リットル以上は少量危険物として市町村の火災予防条例による届出の対象です。品名ごとに指定数量が違い、複数の品名は倍数を合計して判断するため、所轄の消防署に確認してください。
有機溶剤作業主任者技能講習を修了した人から選任します(有機則第19条)。経営者本人が受講して選任される形もあります。
法定の定期自主検査の記録は、有機則第21条の項目を満たす形で別に残します。受注から請求までは、鈑金見積を取り込んで納品書や合計請求書を作れる業務システムがあると手書きの転記が減ります。日本カーネットでは整備システム・整備ソフト DREAM POWER を開業パックの中で提案しています。鈑金見積システムの比較は姉妹サイト鈑金見積システム比較、整備システム比較やおすすめの整備ソフト選びは整備システム比較も参考にしてください。
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