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自動車鈑金塗装の開業支援 > 開業コラム > 板金塗装はやめとけと言われる5つの理由|体への負担・仕事量・保険単価と独立前の確認
板金塗装が「やめとけ」と言われる理由は、主に5つあります。塗料の溶剤や粉じん、夏の暑さによる体への負担、事故の件数が減っていることへの不安、一人前になるまでの時間の長さ、保険修理の工賃単価を自分だけで決めにくいこと、そして独立したときの設備と固定費の重さです。どれも根拠のある心配なので、聞き流さずに一つずつ確かめる価値があります。
この記事では、5つの理由を公表されている数字と法令で確かめたうえで、それでも板金塗装で独立したい人が開業前に確かめることをまとめます。事故の件数は警察庁の統計を引いた国土交通省の資料、整備業の売上は日本自動車整備振興会連合会(日整連)の実態調査、体を守る決まりは有機溶剤中毒予防規則と労働安全衛生規則で確かめました。出典は記事の最後に載せています。
| 理由 | 中身 | 確かめる資料 |
|---|---|---|
| 体への負担 | 有機溶剤、研磨の粉じん、夏の塗装ブースの暑さ、無理な姿勢 | 有機溶剤中毒予防規則、労働安全衛生規則 |
| 修理台数の変化 | 事故の件数の減少、自動ブレーキの普及 | 警察庁の交通事故統計、国土交通省の資料 |
| 技術の習得 | 板金、下地、調色、塗装の工程ごとに経験が要る | 技能検定の職種(工場板金、塗装) |
| 保険修理の単価 | 工賃は指数と対応単価で決まり、自社だけで決めにくい | 日本損害保険協会のガイドライン、国土交通省の施策 |
| 独立の資金と固定費 | 塗装ブースなどの設備、物件、代車 | 自社の収支の試算 |
以下、それぞれの理由がどこまで本当で、どう備えられるかを見ていきます。
溶剤系の塗料やシンナーには、トルエンやキシレンなどの有機溶剤が含まれます。吸い込むと体に影響が出るおそれがあるため、有機溶剤中毒予防規則(有機則)で事業者の義務が決められています。屋内で有機溶剤を使う業務に従業員を常時つかせる場合、雇い入れのとき、配置替えのとき、その後6か月以内ごとに1回、特殊健康診断を行います(有機則第29条)。作業には、技能講習を修了した人から有機溶剤作業主任者を選任します(有機則第19条)。
研磨の粉じん、重い部品の脱着、低い姿勢での作業も体にこたえます。夏の暑さも見逃せません。2025年6月1日に施行された労働安全衛生規則第612条の2で、熱中症を生ずるおそれのある作業では、症状のある人を報告させる体制と、悪化を防ぐ手順を決めて周知することが事業者に義務づけられました。
体への負担は「決まりどおりの備え」でかなり減らせる
板金塗装の体への負担で中心になるのは、塗料やシンナーに含まれる有機溶剤です。有機溶剤中毒予防規則は、屋内で有機溶剤業務に常時従事する労働者に、雇入れ時、配置替え時、その後6か月以内ごとに1回の特殊健康診断を行うことを事業者に求め(第29条)、作業には有機溶剤作業主任者を選任すること(第19条)を定めています。塗装ブースの排気、防毒マスクや手袋といった保護具、換気の点検をそろえれば、吸い込む量は減らせます。夏場については2025年6月1日施行の労働安全衛生規則第612条の2で、熱中症の報告体制と対応手順を決めて周知することが義務になりました。法令の対象は従業員ですが、一人で作業する職人でも体への影響は同じなので、同じ備えをしておくと長く働けます。
作業主任者の講習は有機溶剤作業主任者の取り方で説明しています。健康診断の中身や溶剤の少ない水性塗料についても、同じサイトの記事で扱っています。
「車がぶつからなくなるから、板金の仕事は減る」という話はよく聞きます。数字で見ると、全国の人身事故の件数は、令和3年の305,196件から令和7年の287,023件へと、5年で約6%減りました(国土交通省近畿運輸局の資料、出典は警察庁交通局)。自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)は、国産の乗用車の新型車で令和3年11月から、継続生産車で令和7年12月から装着が義務になり、今後も装着車は増えていきます。
一方で、修理の売上は減っていません。日整連の令和7年度の自動車特定整備業実態調査(会計年度では令和6年度の実績)では、事故整備の売上高は1兆2,253億円で、前年度より1,055億円(9.4%)増えました。そのうち専業の事業場は4,817億円で、17.7%の増加です。車に付くカメラやセンサーが増え、1台の修理で行う作業が増えていることが背景の1つと考えられます。
| 項目 | 数字 | 出典 |
|---|---|---|
| 人身事故の件数 | 令和3年 305,196件 → 令和7年 287,023件 | 国土交通省近畿運輸局(警察庁交通局の統計) |
| 事故整備の売上高 | 1兆2,253億円(前年度比9.4%増) | 日整連 令和7年度 自動車特定整備業実態調査 |
| 自動車整備の事業場数 | 92,251事業場(前年度比133減) | 同上 |
| 整備要員の平均年齢 | 47.7歳(前年度比0.3歳上昇) | 同上 |
事故の件数は減っても、事故整備の売上は増えている
板金塗装の仕事が減るという心配は、半分は数字で裏づけられ、半分は外れています。全国の人身事故の件数は令和3年の305,196件から令和7年の287,023件へ約6%減り、国産乗用車の新型車では令和3年11月から自動ブレーキの装着が義務になりました。一方、日本自動車整備振興会連合会の令和7年度の実態調査では、事故整備の売上高は1兆2,253億円で前年度より9.4%増え、専業の事業場に限ると17.7%増えています。台数が減っても、カメラやセンサーの付いた部品の修理などで1台あたりの作業が増える流れがあると読めます。整備要員の平均年齢は47.7歳で上がり続けており、腕のある職人の引退で受け手が減る地域もあります。地域の工場の数と年齢層を見て判断するのが現実的です。
カメラやレーダーの調整が入る修理はエーミングと特定整備で説明しています。
板金塗装は、板金、下地づくり、調色、塗装、磨きと工程が多く、それぞれに経験が要ります。特に調色は、同じカラーコードでも車ごとに今の色が違うため、場数を踏まないと合わせられません。国の技能検定にも「工場板金」「塗装(金属塗装作業、噴霧塗装作業)」などの職種があり、等級ごとに技能の目安が示されています。
さらに、新しい材料と構造への対応もあります。アルミのボディ、樹脂のバンパー、高い強度の鋼板では、鉄の板と同じ道具と手順では直せないことがあります。覚えることが途切れない仕事なので、「やめとけ」と言われる理由の1つになっています。裏を返せば、手の込んだ修理を受けられる工場は、断られた仕事が集まる立場に立てます。
経験の差が出やすい色合わせの手順は、調色のやり方で説明しています。
自動車保険を使う修理の工賃は、一般に作業ごとの標準作業時間(指数)に、工場と損害保険会社が話し合って決める対応単価を掛けて計算します。工場が自分の判断だけで単価を上げにくいため、「保険修理は割に合わない」と言われてきました。
この点は、ここ数年で動きがあります。国土交通省は令和7年3月4日に、車体整備事業者が事故車修理の適切な価格交渉を進めるための施策を公表しました。日本損害保険協会は2025年2月17日に、修理工賃単価の対話と協議のあり方のガイドラインを定め、工場から協議を求められたら対話に応じ、協議を求めたことだけを理由に不利益に扱わないこと、工場が示したレバーレートなどの根拠資料を丁寧に確かめることを示しています。国土交通省は2026年6月に、事故車修理の標準作業時間の調査結果も公表しました。
保険修理の単価は「根拠を示して協議する」時代に入った
保険修理の工賃は、指数と呼ばれる作業ごとの標準作業時間に、工場と損害保険会社が協議して決める対応単価を掛けて計算するのが一般的です。工場が単独で単価を決められないことが「板金塗装はやめとけ」と言われる理由の1つでした。日本損害保険協会が2025年2月17日に定めたガイドラインは保険会社に対し、工場から単価の協議を求められたら対話を行うこと、協議を求めたことだけを理由に不利益に扱わないこと、レバーレートなどの根拠資料を丁寧に確かめることを、取り組みの例として示しています。国土交通省も令和7年3月4日に価格交渉の促進策を公表しました。独立する人は、人件費、家賃、設備、光熱費から自社のレバーレートを計算し、写真と作業記録をそろえて協議に臨む準備をしておくことが現実的な備えになります。
協定の進め方はアジャスターと保険修理の流れで、レバーレートの考え方とあわせて説明しています。
「やめとけ」と言われる理由を確かめたうえで、それでも独立したい人は、開業の前に次のことを数字と書面で確かめておきます。
収支の考え方は板金塗装の独立は儲かるか、必要な資金は板金塗装の開業資金、全体の手順は板金塗装で開業するにはで詳しく説明しています。
独立前に確かめるのは「台数・取引先・物件・体・資金」の5つ
板金塗装で独立する前に確かめておきたいのは、損益分岐の台数、開業初月から仕事を回してくれる取引先、塗装ブースを置ける物件、体を守る備え、資金の5つです。台数は固定費を1台あたりの粗利で割って出し、その台数が地域の需要と取引先の数で届くかを見ます。物件は用途地域と消防の確認を契約の前に済ませ、塗料の保管量は消防法の指定数量と比べておきます。屋内で溶剤系の塗料を使うなら、有機溶剤中毒予防規則に沿った作業主任者、健康診断、排気と保護具の準備が要ります。特定整備やエーミングを伴う修理は認証工場との協力関係で受けられるようにしておくと、仕事を断らずに済みます。この5つに答えが出ていれば、「やめとけ」という声に振り回されずに判断できます。
板金塗装は、体の負担も覚えることも多い仕事です。そのぶん、腕と段取りを身につけた工場は、地域で頼られる存在になれます。事故整備の売上が伸びていること、職人の高齢化で受け手が減っていること、保険修理の単価を根拠をもって協議できる仕組みが整ってきたことは、これから独立する人にとって追い風です。「やめとけ」と言われる理由を知ったうえで準備した人ほど、開業後に慌てずに済みます。
独立の準備や、開業後の事務の仕組みづくりで迷ったら、お問い合わせフォームからご相談ください。ご相談は、自動車整備・自動車販売・自動車鈑金などの事業者様に限って受け付けています。
体への負担、技術の習得、保険修理の単価、設備の資金など、言われる理由には根拠があります。ただ、事故整備の売上高は日整連の令和7年度調査で1兆2,253億円と前年度より増えており、仕事がなくなっているわけでもありません。理由ごとに備えられるかを確かめてから判断してください。
塗装ブースの排気、防毒マスクなどの保護具、換気の点検をそろえることで、吸い込む量は減らせます。従業員を屋内の有機溶剤業務に常時つかせる場合は、有機溶剤中毒予防規則により6か月以内ごとの特殊健康診断が要ります。溶剤の少ない水性塗料を使う方法もあります。
事故の件数は減る方向ですが、ゼロにはなりません。人身事故は令和7年に287,023件ありました。カメラやセンサーの付いた部品の修理など、1台あたりの作業はむしろ増える傾向があります。
自費修理や販売店・整備工場からの仕事を中心にする工場もあります。保険修理を受けるなら、自社のレバーレートを根拠つきで計算し、写真と作業記録をそろえて協議に臨めるようにしておきます。
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記載内容は2026年10月24日時点で公表資料を確認したものです。許認可や法令の個別の判断は、所管の官庁・自治体・専門家にご確認ください。
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